• Dr.協友のこぼれ話

只今冬眠中?

2025年は、全国でクマの出没が大きなニュースとなりました。

本来なら冬ごもりに入る時期にもかかわらず、クマが人里近くに出没する事例が相次いで報道されています。
一方、動物園のクマは、冬場でも来園者を出迎えてくれます。
これは、いつでも餌が確保できる環境であれば、彼らが必ずしも冬ごもりをする必要がないことを示唆しています。

小さな虫たちの世界に目を向けると、もっと多様でシビアな「冬のサバイバル戦略」が見えてきます。

哺乳類のような恒温動物は、ある程度体温を一定に保つことができるため、環境条件が多少変化しても活動を続けやすいのです。

対照的に、昆虫は変温動物であり、周囲の気温がその発育や活動に強く影響します。
彼らは厳しい低温条件を乗り切るために、「休眠(Diapause)」や「発育の一時休止(Quiescence)」といった特別なサバイバル戦略を用います。この2つの戦略は、似ているようで本質的に異なります。

1. 休眠 (Diapause)

休眠は、発育の一時的な停止ではなく、遺伝的なプログラムによって組み込まれた、より計画的な越冬準備です。いわば「予約制の眠り」です。

昆虫は、寒くなるずっと前に、

「日長が短くなる」、「気温が下がり始める」、「餌の質が劣化し始める」

といった事前刺激により「そろそろ冬が来るぞ」と気配を感じ取ります。

これらの刺激で、体内の休眠誘導プログラムのスイッチが入り、本格的に寒くなる前に代謝を極端に低下させて活動を停止し、休眠状態に入ります。

休眠の最も重要な特徴は、一度休眠に入ってしまうと、一時的に気温が上昇しても活動を再開しないことです。
彼らは、厳しい冬を乗り越えるために、「目覚めない」ことを選択しているのです。

多くの場合、休眠から目覚める(覚醒する)には、「一定期間の低温」を経験した後、「気温の上昇や日長が長くなる」といった休眠覚醒刺激が必要となります。

しっかり低温を経験し、春のサインを感じるまで起きない「慎重派」です。

2.発育の一時休止 (Quiescence)

発育の一時休止は文字どおり、環境条件(特に低温や食料不足)が不適なために、一時的に発育や活動が停止する状態を指します。

いわば、「寒くて動けない」、「食べるものがない」という一時的な停止状態で、

「寒っ!無理!」

と動きが止まります。

昆虫の場合、発育の一時休止では冬の間に暖かい日があれば「お、暖かいぞ」とまた活動を再開してしまいます。

冬の雑木林で、落ち葉の上で日向ぼっこをしているタテハチョウの仲間に出会うことがありますが、彼らはまさにこの「うっかり活動しちゃう」タイプなのです。

 

冬越しの戦略としては、上記以外のものもあります。

 

アブラナ科野菜の重要害虫として知られるコナガは、冬眠(休眠)という性質をそもそも持っていません。

かつて、最低気温がマイナス10℃を下回る冬の軽井沢で調査をした時のことです。
圃場に残ったキャベツの葉をめくってみると、幼虫も蛹も成虫も、全発育ステージが「休眠せず」にそこで活動していたのです。

コナガの故郷は中近東といわれ、暖かい地域出身ゆえに「冬眠して休む」という進化を選ばなかったのでしょう。

でも「耐寒性」は身につけています。
標高350m程度の長野市の1月1日でも、フェロモントラップには成虫が誘引されます。まさに不眠不休のサバイバーです。

ただし、そんなタフなコナガにも限界はあります。
「0℃の状態が2ヶ月続く」と、さすがに全滅してしまいます。
そのため、根雪が2か月以上続く東北北部や北海道では、彼らは冬を越すことができません。

一言で「越冬」と言っても、緻密なプログラムで深く眠る者、気温に合わせて活動する者、そして寒さに耐えながら不眠不休で過ごす者……。
自然界では、種ごとの生存戦略が今も静かに繰り広げられています。