• Dr.協友のこぼれ話

作物・雑草の中での害虫の日々の生活(我々人間と大して違わない!?)

協友アグリ株式会社 普及マーケティング部 技術アドバイザー
農学博士 徐 錫元

 

作物栽培において、雑草・病害虫防除は極めて重要で、これを怠ると収量・品質が大きく低下する。
特に害虫は、単に圃場内だけでなく、圃場周縁部の雑草の中でも生息していることから、この生息地を無くす雑草防除は極めて重要であることは言うまでもない。
これらの害虫を観察すると、いろいろ面白いことがわかる。デジタルカメラの登場により、私のような素人でも簡単に写真撮影ができるようになった。
これを使って害虫の行動を観察していると、彼らの日々の生活が、我々人間とそんなに違いがないと驚くことが多い。
ここでは、いくつかの例を紹介する。

1. 周囲の異変を察する眼

以前、水稲害虫のコブノメイガやアカスジカスミカメ、ホソハリカメムシ(第1図)、イナゴなどの撮影時にシャッターチャンスと思いこれらに焦点をあてシャッターを押そうとすると、虫は気配を察し飛び去り、また横に動いたりした。
そのたびに、私も虫の動きに合わせて位置を変えるのであるが、また、彼らも当方の動きに合わせて動く。
なかなかうまく撮れない。

 

 

よくよく見ると、小さな虫の眼とカメラのレンズが合っているのである。

虫は人の動きに身の危険を察し動くのである。このため、欲しい構図の1枚の写真を撮るのに時間がかかる。
時には1枚も撮れないこともある。この虫の眼には、人間の私はどのように映っているのだろうか。

2. 快適な環境下での生活(葉裏での生息)

植物の葉には表と裏がある。表側は太陽に面することから紫外線と熱が強く(高温)、虫にとっては好適な環境ではない。
このため、ここを避けて葉の裏側に多く生息している。
第2図は、その一例の茶・ツバキ・サザンカ等に寄生するチャトゲコナジラミの幼虫である。

また、最近、農耕地で大きな問題となっている帰化アサガオ類に生息するホオズキカメムシは、大きな帰化アサガオ類の葉を日傘のようにして茎上で生息し茎の汁を吸いながら葉を委縮させていく。

虫は、心地よい環境で生息しているのである。

なお、病害虫防除には葉裏までしっかり薬剤を散布するように指導されている。

3.まずい部分は食べない(葉肉は食べるが葉脈や茎などは食べない)

ダイズ畑では、近年、帰化アサガオ類と同様にホソアオゲイトウ等のヒユ類が問題になっている。
シロオビノメイガ(第3図)はこれを食する。問題の帰化アサガオ類の防除に有用と一瞬考えたが、世の中甘くない。
かじられた部分をよくよく見ると、葉肉部分はきれいに食べられているが、葉脈部分・茎・穂などの硬い部分は残っている。
おいしい部分とまずい部分をきちんと見分けて食べている。

 

 

4.脅威(天敵)

春の水田畦畔・畑地・空き地に生えるカラスノエンドウやスズメノエンドウにはアブラムシが多発する(第4図)。
そこには、このアブラムシを狙って天敵のテントウムシ類が近寄ってくる。
世の中、平穏で楽しく生きていくのは大変である。
いつ、何が起こるのかわからない。

  • 第1図 ノビエ穂上のホソハリカメムシの成虫(徐錫元 原図)

  • 第2図 ツバキの葉裏(左)に生息するチャトゲコナジラミの幼虫(徐錫元 原図)

  • 第3図 ホソアオゲイトウの葉の葉脈を残しながら葉肉部分を食べているシロオビノメイガの幼虫
    (徐錫元・安藤健2012.農林害虫研究会ニュースレターNo29.)

  • 第4図 カラスノエンドウの茎に密生するアブラムシとそれを狙うテントウムシ(徐錫元 原図)