生産者から①
気候変動が生む新たな雑草課題
新規除草成分「シュタルク」
実証試験に手応え
JAやさと採種部会 部会長
谷田部貞雄 様
近年の気候変動により、従来は見られなかったような病害虫や雑草の発生が大きな問題になっている。こうした課題に対応するため、協友アグリがJA全農と共同開発した新規水稲用除草成分が「シュタルク」(一般名:シクロピラニル)だ。茨城県のJAやさと採種部会では、シュタルク剤の成分を含む水稲用除草剤「よあけ」「かみわざZ」を使った実証試験に取り組み、その効果を確認。「来年は部会全体で使いたい」(部会長の谷田部貞雄さん)と強い期待を示している。
漏生イネの増加が問題に
写真1 部会長 谷田部さん
JAやさとの理事も務める谷田部さん(68・写真1)は農業を営む6代目で、水稲20haのほか、麦や大豆、ソバを生産している。「種子生産では雑草や病害虫の発生は一般栽培より少ないことが前提なので、メーカーに聞いて、実際に自分で試しています。試験場と現場では剤の効き方が変わるので、現場に合わせた情報を自分なりに選び、部会員に伝えています」という。
同地域の種子場で近年問題になっているのが、藻の増加と漏生(ろうせい)イネだ。漏生イネは前年の収穫の際にほ場に落ちた種もみが休眠を経て発生する。採種では原種から栽培したものを種子とするため、前年のこぼれ種から生じた漏生イネは除去する必要がある。特に、品種転換を行った圃場では異品種混入の原因になるため、より徹底した除去が求められる。
写真2 橘専門員
土浦地域農業改良普及センターの橘専門員(写真2)によれば、「従来は代かき等で対処できていたが、最近は登熟期間中の高温でもみの休眠が深くなり、発芽が長期間にわたって発生します。八郷地区では特に令和6年から増えています。きちんと管理されているほ場でも見られるようになりました」という。
大規模農家の経営も圧迫
谷田部さんによれば、「一般栽培の田んぼで漏生イネが発生すると、漏生イネで畝(うね)の間が埋まり、肥料を吸収してしまうので生育の妨げになる。2年前はくず米が多くなるなど質が落ちたことがあった」という。その他、通気性(風通し)が悪くなり、株元まで十分に日照が届かず、病害が発生する原因にもなるとのこと。
また、漏生イネはイネなので効果の高い除草剤が無く、種子生産では漏生イネは種子の純度を落とす要因となることから、何回もほ場に入って手作業で抜き取り作業を行う必要があり、「今までは人の手で対応してきましたが、それでは追いつかなくなっています。機械で防除できないことが一番の問題」と見ている。特に、大規模農家は「ほ場を見回る回数にも限界があり、労力が間に合わず対応が遅くなった結果、漏生イネが増えて、農業経営を圧迫する」と指摘する。
実証試験で高い効果
そこで、谷田部さんらは土浦地域農業改良普及センターと協力して、昨年からシュタルク剤「よあけ」「かみわざZ」の実証試験に取り組んだ。シュタルク剤は広範な殺草スペクトラムで多様な雑草をカバーし、防除が難しい漏生イネに発生前処理で高い効果を示す。
昨年は、シュタルク剤(試験区)と、漏生イネには効果がない除草剤(対照区)を用いて枠試験を実施。漏生イネに見立てた種もみで効果を確認した。漏生イネはシュタルク剤の試験区では発生せず、別の除草剤を用いた対照区では発生が認められ、シュタルク剤の効果が高いことを確認した。
写真3 谷田部氏ほ場
今年も枠試験を継続するとともに、谷田部さんの実ほ場(写真3)でも試験を行い、橘専門員らがほ場審査を行う時期に実際に試験ほ場に入り、漏生イネの発生状況を目視で確認した。結果はシュタルク剤の試験区は漏生イネの発生がゼロだったのに対して、対照区では10aあたり約9万本の発生が確認された。この結果から、「昨年と今年で同じような結果が見られ、様々な場所で同じように効果が出た」ことを確認した。
試験結果を受けて、谷田部さんは、シュタルク剤が「漏生イネへの効果で異株抜きの重労働が軽減できる。試験では十分な効果が確認できたので、来年は部会全体で使いたい」と期待する。橘専門員も、「採種部会員が種子生産を長く続けられるためにも、漏生イネに効果の高い除草剤を使用することで省力化につながることが大事なので、シュタルク剤には期待しています」と語る。
写真4 岩﨑主任
現地検討会を主催した、茨城県採種部会協議会事務局(公益社団法人茨城県農林振興公社穀物改良部内)の岩﨑主任(写真4)も、「現地試験の経過について聞くと同時に、ほ場で効果も確認しました。今回の検討会で漏生イネに対する効果が分かったので、他の種子場でも活用され、少しでも種子生産者の労力軽減につながればと考えています」と話す。
幅広い雑草への効果で
コストも軽減
シュタルク剤はノビエなどの雑草にも幅広い効果も期待できる。ノビエへの高い活性と長期残効により、近年課題となっている「後発ノビエ」に対しても優れた効果を発揮する。漏生イネを含めて、様々な雑草に効果があるシュタルク剤であれば、「漏生イネの抜き取りにかかる労力や人件費を考えれば、結果的にコストを減らすことができる」(谷田部さん)と見ている。
「長年使っているとその除草剤が苦手な雑草が増えたり、抵抗性が発達するリスクがある」と話す谷田部さん。その対策として、新しい除草剤に変えていく必要性を実感している。また、大規模化の弊害もあるとし、「水管理等が間に合わず除草剤を効果的に使用できていない農家では、雑草の発生を初期に抑えきれず、後期剤を散布するなど複数の除草剤を使うことになり、結果的にコストが高くなってしまうケースもある」と話す。長い残効性を備えたシュタルク剤は、そのような課題解決への一助となるかもしれない。
こうした課題に対応するためにも現場に適した除草剤を選び、より効果的な雑草防除につなげていくことが求められている。生産現場では農業資材の高騰や、担い手の不足や高齢化が深刻になっている。幅広い雑草に高い効果が期待できる除草剤であれば、コストと労力の軽減につながることが期待できるはずだ。
生産者から②
Coming Soon
専門家から
水稲作における雑草防除の課題と
期待される除草剤
公益財団法人 日本植物調節剤研究協会
代表理事・専務理事
濱村 謙史朗氏
水稲作における問題雑草の現状を概観すると、日本植物調節剤研究協会の2025年度技術確認圃報告書(19県対象;これらで全国の水田面積の約4割を占める)では、のべ30草種以上が挙げられており、上位草種は特に問題が大きいと考えられる。最も多く挙がったのはノビエ(19県)で、ホタルイ(18県)、イボクサ(13県)、オモダカ・クサネム(各12県)、クログワイ(10県)などが続き、ヒメミソハギ類・チョウジタデ・ヒレタゴボウ・雑草イネ・特定外来生物のナガエツルノゲイトウ(写真1)も複数県で挙げられていた。
写真2 ノビエ
写真1 ナガエツルノゲイトウ
特にノビエ(写真2)は、日本で稲作が始まって以来の主要雑草であり、多くの優れた除草剤が開発されてきたにもかかわらず、現在も全国的な問題となっている。その背景には、多剤抵抗性系統の発生・拡大、中干し時期の早期化や長期中干しの普及による残効切れの他、高齢化や経営規模拡大による管理負担の増加なども防除を難しくする要因になっていると考えられる。さらに後者二つは、他の一年生雑草やオモダカ・クログワイなど多年生雑草の残草要因にもなり得る。
写真3 雑草イネ
また雑草イネ(写真3)は、栽培イネとの競合や混入によって減収や品位等級の低下をもたらす。脱粒種子は翌年以降の発生源となり、他圃場へ拡散する危険性もある。そのため早期発見と根絶が重要である。加えて、品種等の転換時には、前作品種が漏生イネとなり玄米への混入が懸念される。雑草イネ・漏生イネともに、現時点では有効な除草剤の体系処理と手取り除草を組み合わせた徹底防除が基本となっている。
このように、水稲作における雑草防除では、従来からの問題雑草に加え、ノビエの多剤抵抗性系統の拡大、特定外来生物の侵入、気候変動への対応、生産現場の高齢化・大規模化などに伴う新たな課題が顕在化しつつある。これらの課題に対応するためには、ノビエに対して長期間の残効性を示し、幅広い殺草スペクトラムを有する新規除草剤の開発が重要である。的確な雑草管理には、有効な除草剤を適期・適正に使用する防除体系を確立し、生産現場において適切な指導を行うことも求められる。シュタルク(シクロピラニル)剤は、このような従来からの雑草問題に加え、ナガエツルノゲイトウや雑草イネ・漏生イネなどの新たな課題に対して切り札となりうる待望の新規除草剤といえる。さらに、同成分を母剤とした特徴的な混合剤も次々と市場に投入される見込みであり、それら剤の活躍には大きな期待が寄せられている。
執筆者プロフィール
千葉大学大学院園芸学研究科修了後、植調協会に入職。
技術部技術課に配属され、以降、事務局技術部技術課長(2006年)、千葉支所長(2014年)、試験研究部長(2018年)を経て、2022年には常務理事・研究所長に就任。
2024年5月より代表理事・専務理事を務める。
専門は農業技術・研究開発。
所属学会は日本雑草学会、日本農薬学会、日本芝草学会で代議員、農林水産航空・農業支援サービス協会の理事、残留農薬研究所の評議員も務めている。
趣味は散歩、ドライブ、F1観戦。